噛む力と身体の健康 kamuchikara-karadanokenkou

私たちは毎日何気なく「噛む」という動作を繰り返しています。しかし実はこの「噛む力」こそが、全身の健康を支える土台であることをご存知でしょうか? 近年の研究では、噛む力の低下が、単に「食べづらい」「飲み込みづらい」といった問題にとどまらず、肥満・認知症・糖尿病・心疾患・転倒リスクの増加など、さまざまな全身疾患と深く関係していることが明らかになってきました。
このページでは、「噛む力」が全身の健康にどのような影響を与えるのか、その重要性と対策について、わかりやすく解説します。

「噛む力」が低下すると起こること

①食べる量が減り、栄養不足になる

噛む力が弱まると、硬いものや繊維質の多い食べ物(例:野菜・肉・玄米など)が食べにくくなります。
その結果、やわらかくて食べやすい加工食品や炭水化物中心の食生活に偏りがちになります。
これにより、たんぱく質・ビタミン・ミネラル・食物繊維が不足し、低栄養・免疫力低下・筋力低下といった悪循環を招きます。

②飲み込み力(嚥下機能)も衰える

噛む動作は、舌・唇・頬・顎など多くの筋肉を使います。この筋肉の連携によって「飲み込む力(嚥下機能)」も保たれています。
しかし、噛む機会が減るとこれらの筋肉も衰え、誤嚥性肺炎(食べ物が気道に入って肺に炎症を起こす)のリスクが高まります。
特に高齢者にとって、誤嚥性肺炎は命に関わる重大な疾患です。

③脳への刺激が減り、認知症リスクが上がる

噛むという行為は、脳に多くの刺激を送る大切なスイッチでもあります。しっかり噛むことで、脳の血流が促進され、特に記憶をつかさどる海馬が活性化することが分かっています。反対に、噛む力が低下すると、脳への刺激が減り、認知機能の低下や認知症のリスクが高まる可能性があります。

④噛み合わせのバランスが崩れ、全身の姿勢に影響

噛む力は、あごの位置、首、背骨、さらには体全体の姿勢にも影響します。
片方だけで噛む癖や、歯が欠けたまま放置していると、身体のバランスが崩れ、肩こり・頭痛・腰痛・転倒などの不調を引き起こすことがあります。
特に高齢者は転倒が要介護の原因にもなりうるため、「噛み合わせ」は健康寿命に直結する重要な要素です。

⑤代謝の低下による肥満・糖尿病リスクの増加

よく噛むと、脳の視床下部にある満腹中枢が刺激され、「お腹がいっぱいだ」と感じやすくなります。しかし、噛む力が弱まり、食事時間が短くなると、満腹感が得られにくくなり、早食い・過食につながりやすいのです。
その結果、肥満、血糖値の急上昇、インスリン抵抗性の悪化などを招き、糖尿病などの生活習慣病リスクが高まります。

噛む力を保つには?

では、どうすれば「噛む力」を維持・向上させることができるのでしょうか?
以下のような習慣を意識することが大切です。

1.自分の歯をなるべく残す

やはり、天然歯に勝るものはありません。むし歯や歯周病を防ぎ、自分の歯で噛める状態をできるだけ長く保つことが重要です。
そのためには、定期的な歯科健診・歯石除去・フッ素ケアなどが効果的です。

2.入れ歯やブリッジでも「しっかり噛める」調整を

歯を失った後でも、「噛む力」を維持することは可能です。合わない入れ歯やぐらつくブリッジのまま放置すると、噛むこと自体が苦痛になり、食事が楽しくなくなってしまいます。
当院では、快適でしっかり噛める入れ歯の作製・調整に力を入れております。お気軽にご相談ください。

3.噛む回数を意識して増やす

よく噛むことは、トレーニングにもなります。例えば「一口で30回噛む」「繊維質の多い食材を積極的に取り入れる」「左右均等に噛む」など、日常生活の中で無理なく取り入れられる習慣です。

4.お口周りの筋肉を鍛える体操やガム

「パタカラ体操」など、口の筋肉を鍛えるトレーニングも有効です。また、キシリトールガムなどを使って噛む習慣を取り戻すことも、噛む力の維持に役立ちます(ただし、歯が弱っている方は注意が必要です)。

よく噛むことは、最高の健康法!

「噛む力」は、単に歯の問題ではなく、生きる力そのものです。美味しく食べること、楽しく話すこと、転ばず歩けること、病気を防ぐこと。それらすべてに、噛む力がつながっています。
「最近硬いものが食べづらい」「入れ歯が合わなくて使っていない」「噛み合わせが気になる」
そんなお悩みをお持ちの方は、ぜひ一度、私たちにご相談ください。