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意識があるのに治療中の嫌な記憶が残らない「静脈内鎮静法」の仕組みblog

「意識があるのに、どうして治療中の嫌な記憶が残らないのか」

静脈内鎮静法(セデーション)に対して抱く疑問の多くは、「脳や身体にどのような作用が起きているのか」という仕組みを知ることで解消されます。
静脈内鎮静法は、患者様の感覚を無理やり麻痺させるのではなく、脳のリラックススイッチを科学的に働かせる麻酔技術です。

① 脳の興奮を鎮める神経伝達物質(GABA)の働きを強める

恐怖や緊張を感じているとき、脳の神経細胞は過剰に興奮し、アドレナリンなどのストレスホルモンが分泌されて心拍数や血圧が跳ね上がります。
静脈内鎮静法で使用する薬剤(主にミダゾラムやプロポフォールなど)は、脳内でブレーキの役割を果たす神経伝達物質「GABA(ガンマアミノ酪酸)」の受容体に結合します。
これにより、脳全体の過剰な興奮シグナルが穏やかにブロックされ、自律神経の交感神経(緊張モード)から副交感神経(休息モード)へと一気に切り替わります。その結果、心臓のドキドキや手汗、全身のこわばりが自然に解け、「お風呂に浸かっているような心地よい脱力感」がもたらされます。

② 海馬に働きかけ、治療中の記憶を定着させない「前向性健忘作用」

「手術が終わった瞬間に、治療中のことをほとんど覚えていない」という現象は、薬剤が持つ「前向性健忘作用(ぜんこうせいけんぼうさよう)」によるものです。
薬が効いている間、新しい記憶を一時的に保管・処理する脳の器官(海馬)の働きが一時的に休息状態に入ります。
そのため、治療中に医師からの「少しお口を開けてください」といった呼びかけに対して自然に応答できていても、処置が終わって薬の血中濃度が下がる頃には、その間の嫌な記憶(キーンというドリル音、振動、器具が見える恐怖)が脳に刻まれません。「気がついたら全部終わっていた」と感じられるのは、この作用が的確に働いている証拠です。

③ 脳の警戒レベルを下げることで「痛みの閾値(いきち)」を引き上げる

人間は極度の緊張や恐怖を感じていると、神経が過敏になり、ほんのわずかな刺激でも「激痛」として脳に認識されてしまいます。
静脈内鎮静法によって脳の警戒レベルがリセットされると、痛みを感じるボーダーライン(痛覚閾値)が大幅に引き上がります。さらに、実際の歯や歯ぐきの局所的な痛みは通常の歯科麻酔(局所麻酔)で完全に遮断するため、「麻酔の注射のチクッとした感覚」すら意識されないまま、確実な無痛状態を作り出すことができます。

④ 脳幹の反射中枢を穏やかに鎮静化し、「嘔吐反射」を止める

器具や型取り材がお口に入ったときに「オエッ」となる嘔吐反射は、喉の奥の感覚神経から脳幹(延髄)の嘔吐中枢へ送られる防御反応です。
静脈内鎮静法は、この脳幹の過敏な反射反応を穏やかに鎮静化させます。喉の奥に器具や水が触れても反射的な吐き気が誘発されなくなるため、過去に型取りで苦しい思いをした方でも、咳き込むことなく安全に治療を完了できます。

⑤ 呼吸中枢を眠らせない「自発呼吸の完全な維持」

全身麻酔との決定的な違いは、延髄にある「呼吸中枢」を抑制しない点にあります。
全身麻酔では脳のすべての機能が深くまで沈み、自力での呼吸が止まるため、気管に管を通して人工呼吸器をつなぐ必要があります。
これに対し、静脈内鎮静法は脳の興奮と不安を取り除く浅いレベル(中等度鎮静)に精密にコントロールされるため、ご自身の力で安定して呼吸を続けられます。気道反射(むせたときに異物を出す力)も保たれているため、身体への侵襲が極めて小さく、日帰りが可能な安全性を維持できるのです。

つくば中央歯科では麻酔科出身の院長が静脈内鎮静法の処置を行います。その場合、基本的には自費診療となりますので、ご検討の際は自費診療の前提でご相談いただけますと幸いです。費用は医院へお問い合わせください。